疑問の声が挙がる新種のESG債ー目標未達による利率上昇は適切か

ニュースのポイント

  1. ESG目標の未達で利率上昇が課される新たなタイプの債権に対し、投資家が懐疑的な見方を示している
  2. 2020年11月時点、同種の債権発行事例は日本国内で1社、世界でもわずか10社ほど
  3. 国際資本市場協会(ICMA)が策定した新原則により、今後発行が拡大していく兆しも

新種のESG債権は倫理的に適切なのか

引用元:大和証券 グローバルEV関連株ファンド ESG投資とは

発行体がESG(環境・社会、企業統治)目標を達成できなかった場合、利率上昇などのペナルティーが課される新たなタイプの債券に対し、一部の投資家は懐疑的な見方を示している。

ESG目標の未達で、ペナルティーを課す債券は、「サステナビリティー・リンク・ボンド」(以下「リンク債」という)と呼ばれる。発行体が任意かつ、事前に定めたESG目標を達成できなかった場合に利率が上がる仕組みを持つ。日本では、不動産大手のヒューリックが10月に初めて発行したものの、投資家の需要はいまひとつ盛り上がりを欠いた。発行体の目標未達を理由に投資家が、享受する利益が増えるのは倫理的に問題ないのか、という疑問が投資家の間で浮上したからだ。

ESG投資の盛況が、企業の発行インセンティブを歪めるとの議論は以前から勃興していた。加えて、債券の仕組みを制度設計する「債券デザイナー」たちが、時代の潮流を先読みするあまり、システム上に欠陥のあるESG債が生み出されるという、より漠然とした懸念もある。例えば環境債と喧伝しながら、本当は環境改善効果がない資金調達(グリーンウォッシュ)を選定するのに、多くの投資家は苦心している。

リンク債の発行事例は世界でもわずか10例ほど

引用元:Sustainable Japan「【イタリア】エネル、サステナビリティ・リンク・ボンドで680億円、同ローンで1250億円調達」

リンク債の発行事例は少ない。イタリアの電力会社エネルが2019年9月に世界で初めて発行したが、現在に到るまで、シャネルやスイスの製薬会社ノバルティスなど世界でも発行実績は10例ほどにすぎない。ブルームバーグが集計したデータによると、発行総額は約118億ドル(約1兆2300億円)。ESG投資の総額が30兆6830億米ドルとされているだけに、約1兆1000億ドルのESG債市場の中では微々たるものだ。

三井住友海上火災保険の小林奈央・投資部課長代理はESG債への興味はあるとしつつ、リンク債については利率変動の本質的な意義が明確ではないと指摘する。「発行体の努力で利率の上昇を防げると捉えれば報酬と言え、それは投資家から発行体への寄付のようなものでもある」と強調。一方で目標未達の場合の利率上昇を「発行体への懲罰と考えた場合、それを投資家が受け取るのには違和感がある」と話した。

国際資本市場協会(ICMA)の原則策定により、リンク債発行拡大の兆しも

引用元:ASIFMA「International Capital Market Association (ICMA) (2018 CCMC」

国際資本市場協会(ICMA)が6月に、KPIの選定や債券の特性を明確にするよう発行企業に求める「サステナビリティー・リンク・ボンド原則」を策定しており、今後はリンク債の発行が拡大する兆しもある。欧州中央銀行(ECB)が来年1月からリンク債をリファイナンスオペの受け入れ対象にすると発表したのをきっかけにリンク債の発行は増えると、HSBCホールディングスは予想している。

ESG
ESGとは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」のことだ。企業が長期的に成長するためには、ESGへの取り組みが重要との見方が急速に広まっている。それに伴って、ESGに積極的に取り組む企業に投資する「ESG投資」が、マーケットのメインストリームと言えるほど、大幅に拡大している。参考:THE OWNER
サステナビリティー・リンク・ボンド
サステナビリティ・リンク・ボンドは、サステナビリティに関する重要KPIで目標(サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット:SPT)を事前に設定し、達成状況に応じて発行条件が優遇される制度。優遇される条件は債券利率で設定することが多く、達成すると利率が下がる。参考:Sustainable Japan
グリーンウォッシュ
グリーンウォッシュとは、環境に配慮した、またはエコなイメージを思わせる「グリーン」と、ごまかしや上辺だけという意味の「ホワイトウォッシュ」を組み合わせた造語。一見、環境に配慮しているように見せかけて、実態はそうではなく、環境意識の高い消費者に誤解を与えるようなことを指す。企業がブランドイメージを向上させたいという理由でありもしない“強み”をアピールした結果、NGOなどからグリーンウォッシュだと批判されることがよくある。参考:IDEAS FOR GOOD
国際資本市場協会(ICMA)
International Capital Market Association (ICMA)はスイスに本部を置く(1969年設立以来チューリヒに)国際団体です。ICMAは世界60カ国の発行体、発行市場・流通市場取引仲介業者、アセット・マネージャー、投資家、資本市場インフラ運営者等500以上の会員を数えます。市場のあらゆるセグメントについて、会員と活発に作業に取組み、規制、市場や、これに関連して国際債券市場の市場慣行と機能に影響を及ぼす事項を優先課題としている。ICMAの任務は国際債券市場のレジリエンスと良好な機能を促進することだ。参考:フランス国債庁
サステナビリティ・リンク・ボンド原則
サステナビリティ・リンク・ボンド原則(SLBP)とは、金融商品が発行体の将来のESG 成果を組み込み、SLB 市場の健全性を高めることを目的とし、発行方法を明確化して、SLB を発行するためのベスト・プラクティスを示す自主的なガイドラインである。参考:ICMA サステナビリティ・リンク・ボンド原則

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